【講評】『風景泥棒 3 -Landscape Rippers 3- 10.1-11.7』作田知樹 | SAKUTA Tomoki

『風景泥棒 3 -Landscape Rippers 3- 10.1-11.7』

作田知樹|SAKUTA Tomoki

京丹後の「風景泥棒」は、毎回規模や出展者に変化はあるものの、継続的に地域との関わりを続けてきたアーティストによる展覧会であり、今年3年目となった。「風景泥棒」のタイトルは、アーティストそれぞれが京丹後で「盗んだ」風景を、観客が実際に京丹後の多様な風土を巡りながら体験し、作品体験を通じて「風景の見え方を変化させてしまう」というコンセプトから来ている。

DAISAK+NTsKi+川勝小遥《ドルフィン・マン》2021、元田重機業(株)織物工場1F


DAISAK、NTsKi、川勝小遥は元田重機業織物工場の1階で《ドルフィン・マン》を展開。NTsKiの体験に基づく架空の人物を「実景」として浮かび上がらせた。京丹後は七姫伝説をはじめ多くの魅力的な人物に関する伝説を持つ地域だが、そこで暮らす人々にとっての「共存している謎の他者」のイメージの重なる映像と小屋とドラマチックな空間から、現代の都市伝説を超えた「風景」を描き出した。

SIDE CORE《岬のサイクロプス 2021》2021、元田重機業(株)織物工場2F


ゲストアーティストのSIDE COREは、同じ建物の2階で、インスタレーションと映像作品の上映をした。新作は丹後半島の「風景」を生み出す安山岩にフォーカスした写真を大小の椅子の各面に貼り込んだインスタレーションである。また映像作品では、今は消えた灯台の跡地に赴いて夜に火を灯していく行為を写したもの。安山岩は切り出されて、経ヶ岬灯台をはじめとする建築物に使われてきた。他方、実景を人が作り出してきたことの裏返しとして、文字通り椅子の裏側には海岸で採取してきた漂流物と思しき人工物のゴミが整然と並べられていたのが印象的だった。

石毛健太《みえる》2021、元田重機業(株)織物工場3F


石毛健太《みえる》2021、三津漁港冷蔵庫


石毛健太の作品は2箇所、社会と「風景」のスピードの違いを視覚化する装置を設置した。元田重機業織物工場の3階で展開したインスタレーション《みえる》では、浅茂川の街を見渡せる部屋でレンズや鏡で自然光を集め、時間とともに変化していくオブジェを。三津漁港の元漁協の冷凍庫跡ではカメラ・オブスクラを構築して、港の風景を部屋に映し出した。漁協が解散し船の出入りも減った港の風景をじっくりと見ていると、目が慣れていくにつれて波と光線、潮の満ち引きが浮かんできた。

BIEN《15》2021、三津漁港荷捌き場


三津漁港ではもうひとつ、BIENによるインスタレーション《15》。三津漁港の風景の中で「15秒」が人によりズレていく様子を映像で写した。市内の「最北子午線塔」で示された時間と実際の時間のズレを映し出すが、周囲に打ち寄せる波音の絶え間なく変わるリズムの中ではむしろ正確な15秒のアラームこそ異物であることに観客は気が付くのだった。

三津の灯台珈琲のオリジナルタンブラー。(写真提供:三津の灯台珈琲)


三津漁港は漁協の建物が解体され一見すると閑散としたが、新たに灯台をモチーフにしたロゴマークを看板にしたカフェ、三津灯台珈琲がオープンしていた。店内に入ると、その可愛らしいロゴマークは、今回の参加作家ではないが、前回、三津漁港で三津八幡神社芝居舞台に水琴窟のインスタレーションを展開した高橋臨太郎の手によるものと知った。社会の変化とともにある漁港の風景と、アーティストを含む人の営みが交錯する時間を、深みのあるコーヒーとともに味わうことができた。

田中良佑《降り積もる影》2021、元油善鉄筋工場 1F


田中良佑は3年に渡り、丹後半島の奥深く、細川ガラシャ幽閉伝説のある味土野でのリサーチと滞在制作を行ってきた。今回は新旧作品を織り交ぜた展示《降り積もる影》を浅茂川の元油善鉄筋工場1階で展開した。廃村後に移住した移住者との交流を通じて、人々の「影」を記録した集積としての展示は、個々の移住者の強いキャラクターというよりも、厳しい自然の中で独立した個人がどのように生き、何に喜びを見出し、どのような壁に向き合うのか作家による誇張をあえて避けて提示していた。「影」の積層を通じて重ね合わさる輪郭の中で、観客自身も自問していたように思う。時間をかけて撮影された良質のドキュメンタリーに通じる感覚があった。

鷲尾怜《for mi》2021、元油善鉄筋工場 2F


鷲尾怜の《for mi》は、昨年のボウリング場跡地での大規模な展開と同様、リアルとフィクションが交錯し、アーティスト自身が展示の一部となるパフォーマティブなインスタレーションであった。会場から見降す隣家の庭の「掃除」により採取した植物を積み上げ、植え替え、新たな物語を想起させた。昨年に続き個人的体験と風景の異化を試みる手法を継続しつつ、また自らの肉体を行使して「移し替える」というアーティストの介入の結果が風景を構築しており、広大な廃墟とは異なるスペクタクルの快があった。

こうした3年目の「風景泥棒」だったが、タイトル通りの言葉遊びの感覚もありつつ、それぞれのアーティストが解釈し、地域にある「風景」そのものを新たに見出し、また継続的な関わりの中で深めて提示する展覧会であった。これまでの地域芸術祭の中には、風景の中に建築的なスケールの、象徴性を持つ巨大オブジェを設置するような直接的な介入によって風景を異化しようとする試みもある。それ自体は否定されるものではないが、異なるアプローチを取る試みとしても本展は興味深いものであった。
 
 
作田知樹|SAKUTA Tomoki
文化政策実務家・研究者。国際交流基金ロサンゼルス日本文化センター副所長を経て、Arts & Considerations 代表。Arts and Lawファウンダー、理事・事務局。行政書士。Arts Managers Lab. メンバー。文化芸術創造都市横浜・臨時相談センター “YES” 相談員。京都精華大学大学院非常勤講師。著作に『クリエイターのためのアートマネジメント―常識と法律』(八坂書房・2009年)など。